過去の受賞者TOP日本自然保護大賞2016(平成27年度)受賞者 活動紹介/講評シンポジウムの様子

日本自然保護大賞2016(平成27年度)受賞者 活動紹介/講評

【大賞】保護実践部門

泡瀬干潟を守る連絡会

サンゴ礁、海草藻場に広がる貴重でユニークな干潟を守る運動

人工島造成事業による埋め立てから沖縄島の泡瀬(あわせ)干潟を守るため、2001年に結成。以来、独自の調査に基づく科学的なデータをもとに沖縄市・県・国への保全要請、県民市民への広報や自然観察会など、幅広く活動を展開している。2002年に埋め立て工事は着工されたものの、本会が起こした泡瀨干潟「自然の権利」訴訟は、埋め立て面積を 187haから95haに半減させる計画変更に大きく寄与した。また、残る干潟の保全活動にも積極的に取り組み、ラムサ一ル条約登録に向け県知事や環境省の前向きな回答を得る成果を得た。今後はエコツーリズム活動なども計画している。

≫活動発表動画はこちら

■講評

保護実践部門は今年度も個人・団体・組織から数多くの応募があリ、各地での保護活動が長く定着し、高い保全効果を生み出していることが感じられました。選考でも高い評価を受けた応募者も多く、本部門からの入選者も多数となりました。中でも、「泡瀬干潟を守る連絡会」は2001年から干潟や藻場の調査、公金支出差し止め訴訟などを行い、埋め立てが豊かな干潟の環境を破壊するばかりでなく公金支出の経済的合理性がないことを明らかにし、埋め立て工事の面積を半減させました。こうした実績が保護実践部門の授賞にふさわしいと判断されました。

吉田 正人

国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)会長
筑波大学大学院教授
日本自然保護協会専務理事

【大賞】教育普及部門

十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ

地域の生物多様性を活かした市民参加による地域づくり

ブナ林と棚田に代表される里山景観が色濃く残る新潟県十日町市地域で、地域の博物館として生物多様性の調査研究とその価値を発信する活動を展開してきた。開館当時から「等身大の科学」「住民皆科学者」「地域全体博物館」をコンセプトに、住民参加型の生物多様性調査を10年以上継続し、地域の自然の価値付けや再認識、住民参加による「たくさんの目や視点」を生物多様性データの質・量の向上につなげ、教育普及活動を通じた地域づくりへ活かしてきた。全国の生物多様性保全の舞台である中山間地域における地域づくりのモデルとして注目されている。

≫活動発表動画はこちら

■講評

この部門は、今年度も多様な活動主体・テ一マが集まり、いずれも地域発の活動として、すばらしいものばかリでした。なかでも十日町市立里山科学館越後松之山「森の学校」キョロロは、“施設”の枠を越えた活動で、自分たちの地域の自然を知り、そのことを通じて生物多様性への理解を深め、それが地域作りに貢献するレベルにまで高めてきました。施設にありがちな「待ち」の姿勢ではなく、地域に積極的に出ていく「攻め」の運営を高く評価し、また、昨今の箱物行政への画一的な批判にさらされている全国の同じような施設に対するエールも含めて大賞としました。

神谷 有ニ

株式会社山と溪谷社 Yamakei Online部部長 兼 新規事業開発室室長
日本山岳遺産基金渉外担当

【大賞】地域の活力部門

芸北せどやま再生会議

地域ぐるみの次世代型里山保全の仕組み「芸北せどやま再生事業」

里山保全の担い手不足は全国的な課題だが、本事業ではボランティアに頼らず、山林の持ち主自身が里山の整備・管理の担い手となり、切り出された広葉樹を地域通貨「せどやま券」で買い取ることで、利益を地域で循環させる仕組みをつくり、里山保全を促進している。事業開始から3年間で出荷登録者は 59人(地域世帯の約6%)、広葉樹は993トン・針葉樹182トンが里山整備で切り出され、せどやま券682万4千円分が発券された。環境学習にも力を入れ、小学5年生の授業では実際に木を搬出し、地域通貨を使って事業の仕組みを具体的に学んでいる。

≫活動発表動画はこちら

■講評

本部門では、価値観や共同体の問い直しなど、活動のみにとどまらず、深く持続可能な社会を模索する例があり、「地域の活力」としては難しい審査となリました。「芸北せどやま再生会議」の取り組みは、難易度の高い地域通貨の試みがうまく回っていること、里山の保全だけでなく、再生可能エネルギーや循環型社会の実現、ならびに実経済にも貢献していること、意識的に次世代の育成を行っているなど、その具体性と実質的な成果が高く評価されました。

高野 孝子

NPO法人エコプラス代表

【大賞】東北復興貢献部門

蒲生を守る会

1970年から続く仙台市蒲生干潟の保全活動

結成は1970年。仙台港建設のための干潟埋め立て計画に対し、保全を求める運動を推進。干潟の埋め立てを免れた後、干潟と周辺の48haは国の鳥獣保護区特別保護地区に指定された。2005年には蒲生干潟自然再生協議会に参画、自然再生全体構想の策定に貢献した。2011年の東日本大震災で干潟は大打撃を被ったが、守る会は44年間継続してきた月例鳥類生息調査を震災1力月後に再開。鳥類や底生生物、地形変化などの記録を取り続け、シンポジウムや観察会で干潟の回復状況を発表し、巨大防潮堤建設による蒲生の自然と歴史遺産の危機を訴え続けている。

≫活動発表動画はこちら

■講評

今年度の本部門では、震災で危機に陥った動植物の保護活動や地域の自然や生態系を活かした復興活動などが受賞候補にあがり、いずれも震災直後から地域に密着した活動で成果をあげておられました。中でも、「蒲生を守る会」 は40年前から継続してきた貴重なデ一タをもとに、震災後の北蒲生復興計画についても、干潟の生態系回復の面から提言を行い、巨大防潮堤を80mセットパックする計画変更を勝ち取リましたが、まだ多くの問題点を指摘し続けています。こうした息の長い観察に基づいた粘り強い運動が評価されました。

中静 透

東北大学生命科学研究科教授

【大賞】企業・団体リーダー部門

積水化学工業(株) 滋賀栗東工場

工場の部材を有効活用した琵琶湖の生物多様性保全活動

滋賀県が進めている「魚のゆりかご水田プロジェクト」に、合成木材(商品名FFU)や塩ビパイプ等の製造段階で発生する端材を提供し、田んぼに魚を呼び戻すための魚道の堰板や一筆魚道を製作・設置した。また、工場が水田オーナーとなり、社員と家族による田植えや稲刈り体験、生き物観察会を実施した。水田内水路には、塩ビパイプを設置したところ、生きものの「よき住処」となっていることが確認された。さらに、循環型社会想像研究所「えこら」を通じて、工場内の資源物を売却し、環境保全団体への寄付金となる仕組みをつくった。

≫活動発表動画はこちら

■講評

候補となった取り組みは、いずれも一定の「成果」を挙げていることがうかがえましたが、現在の取り組みが組織内でさらに展開、発展していくと見込まれるかどうか(将来性)、他の組織あるいは社会に対する影響力、伝播力があるか(波及性)については、選考委員の評価が分かれ、審査はかなり難航しました。その中で、企業内組織である工場が、独自に創意工夫を凝らし、生産過程で発生する端材や工場内資源物を最大限有効に活用するなど、工場ぐるみで事業に直結した活動を展開している積水化学工業株式会社滋賀栗東工場が高く評価されました。

石原 博

三井住友信託銀行(株) 業務部兼経営企画部CSR推進室審議役
経団連自然保護協議会企画部会長

【大賞】子ども・学生部門

FANフィールドアシスタントネットワーク

北海道キナシベツでのワークキャンプを通した地域の自然保護

大学ごとの垣根を越え、全国各地の学生が参加するフィールドアシスタントネットワークのプロジェクトの一つとして、キナシベツ湿原(釧路市音別町)で1993年に活動を開始。環境保全作業キャンプと銘打ち、1997年以降は毎年、夏冬2回、ワークキャンプを開催している。地元で活動する団体と連携し、湿原や自然海岸、周辺環境の保全を目指して、植生保護用の柵の設置・補修、自然観察路や看板の設置、自然環境調査など、先輩から後輩へと受け継ぎながら活動を継続している。この実践で、地域社会に自然環境の価値への再認識も広がり始めている。

≫活動発表動画はこちら

■講評

今年度も広範囲にわたる活動に頭が下がり、長く活動を続けて来た方々からの参加が目立ち裾野の広さに感動致しました。本部門で9団体に絞られた最終候補者は中高大学生のみで、小学生からの報告は次回に期待します。大賞となった「FANフィ一ルドアシスタントネットワーク」は推薦者一人から始まったキナシべツ地域の保全活動に、大学やサークルも越えて集まった学生たちが賛同する、というユニークな集まりです。「若さと行動力」で地域の人々の認識や行政までも動かし社会人となってもつながっている形は今後の大きなヒントとなるでしよう。

イルカ

IUCN親善大使
シンガーソングライター
絵本作家

沼田 眞 賞

ユウパリコザクラの会

夕張岳の大自然及び文化遺産を次世代に引き継ぐための保全活動

スキー場計画を阻止し、夕張岳を国の天然記念物にすることを目的に1989年に発足。関係機関を動かし翌年に天然記念物指定を達成した。その後1997年に設立された「北海道高山植物盗掘防止ネットワーク」の中核団体となり、高山植物保護に手薄な法整備を整えるための要請活動を積極的に展開、2002年の「北海道希少野生動植物の保護に関する条例」制定に貢献した。夕張市の財政破たん後は、老朽化した市営夕張岳ヒュッテの管理を引き受け、全国から建替えの賛同と資金協力を募り、2013年に再建を完了。ヒュッテを核に子どもの交流活動も精力的に行っている。

≫活動発表動画はこちら

■講評

沼田眞賞の選考は、最終審査の対象とされたすべての活動について、沼田眞賞の精神である「自然保護および自然保護教育の模範となる実践活動、及び先駆的?独創的な考えを示した研究や著作、科学的裏付けとなる重要な調査研究」を念頭に審査しました。受賞されたユウパリコザクラの会は、北海道夕張岳のスキ一場計画を阻止し、夕張岳の高山植物群落を国の天然記念物に指定することをめざして発足した会です。それらの目的を達成した後に、北海道高山植物盗掘防止ネットワークを設立してその中核団体となり、北海道希少野生動 植物保護条例の制定にも貢献するなど、その姿勢と活動の成果は、沼田眞賞にふさわしいものと高く評価されました。

亀山 章

日本自然保護協会理事長・東京農工大学名誉教授

*沼田眞賞
自然保護に尽力された沼田眞博士の志を未来に伝えていくにふさわしい活動に、特別賞として「沼田眞賞」を授与します。沼田眞博士は、生態学者として自然保護の重要性を科学的に説き、日本自然保護協会の会長として自然を守ることの大切さを訴え、日本の自然保護を国際的な水準に高めました。

選考委員特別賞

北限のジュゴン調査チーム・ザン

絶滅危惧種のジュゴンを 保護するための食み跡調査

沖縄はジュゴンの生息域の北限に位置し、かつては多くのジュゴンがいたが現在は数頭ほどに減少、世界的にも絶滅の危機に瀕している。チ一ム?ザンはジュゴンの採餌場である名護市東海岸の海草藻場の状態と利用状況(食み跡)を毎年調べ、異変がないか生息海域を監視し、得られたデータを海草藻場の保全に活かす活動を実践している。嘉陽で実施された護岸工事では沖縄県に調査データを提供し、事業がジュゴンに影響を及ぼさないよう、話し合いを重ねている。また市民に調査への参加も呼びかけ、守り手を増やすことにも力を入れている。

≫活動発表動画はこちら

■講評

選考委員特別賞は、選考委員が特に今後期待する活動として、今年度より授賞が決定しました。「北限のジュゴン調査チ一ム・ザン」は、ジュゴンの食み跡を記録する地道な調査活動に取り組み、辺野 古や大浦湾でも「この地域ではジュゴンの利用はほとんど見られない」という事業者による環境アセスメントの誤りを指摘しました。名護市東海 岸で行われた護岸工事では、事業者である沖縄県に調査デ一タを提供し、ジュゴンの生息に影響を及ぼすことがないよう話し合いを重ねています。同会の活動は、選考委員特別賞の授賞にふさわしいものであると評価されました。(吉田 正人)

日本自然保護大賞2016(平成27年度) 入選者一覧(都道府県順)

入選者 都道府県 活動テーマ
NPO法人霧多布湿原ナショナルトラスト 北海道 市民、行政、企業などによって保全進む霧多布湿原30年の取り組み
流域の自然を考えるネットワーク 北海道 河川流域環境の保全と河川にかかわる機関・団体への提言
森田 正治 北海道 「小さな野生動物の命を救う事が、大きな自然を守る第一歩である」を理念に、その担い手を育てる活動
青森県立名久井農業高等学校
TEAM FLORA PHOTONICS
青森県 塩害からのサクラソウ救出活動と国立公園におけるサクラソウ自生地の保全研究
棟方 有宗(宮城教育大学) 
田中ちひろ(仙台市八木山動物公園)
宮城県 東日本大震災の津波で被災した仙台市沿岸域のメダカの野生個体群復元に向けた取り組み
元泉地域農地・水・環境保全組織 山形県 子供たちが田園の自然を学び、伝え、広め、田園地の持続発展基礎を育んだ地域環境教育水田「めだかの学校」活動
小さな鳥の資料館 池田 昇 茨城県 小さな鳥の資料館を活用した地域の自然保護を目指した環境啓発活動
茨城県土浦市立土浦第四中学校 茨城県 竹林の研究・竹林整備による生物多様性保全活動を通しての環境教育活動
菊地慶四郎 群馬県 裸地化したアヤメ平の植生回復と課外環境教育による地域環境の保護意識向上
株式会社サニクリーン 東京都 自然の中で楽しく遊び、学習し、未来へ向けて行動に起こすべきことを感じていく。
アニマルパスウェイ研究会 東京都 樹上性野生動物の保護のためのアニマルパスウェイの開発・普及
株式会社 NTTドコモ 東京都 Smart Action for Forest ~森の未来を守るために、今できること~
中越パルプ工業株式会社 東京都 竹紙(たけがみ)の取り組み~本業を通じた社会的課題への挑戦~
アズビル株式会社 神奈川県 福島県南会津町と実施する準絶滅危惧種「ひめさゆり」保全活動
岐阜県立岐阜高等学校 岐阜県 守れ!ふるさとのカスミサンショウウオ~生息地の整備、個体数増加の試みかた、遺伝的多様性の維持まで~
岐阜県山県市高富中学校生物部
「ふくぼっち班」
岐阜県 守れ!ふるさとのヒダサンショウウオ
NPO法人 縄文楽校 静岡県 自然保護でつなぐ、歴史の道、水の道、いのちの道
山崎川グリーンマップ 愛知県 地域の子どもたちによる山崎川の昔の様子の聞き取り調査
特定非営利活動法人 赤目の里山を育てる会 三重県 「新桃太郎のお爺さん物語」
栗見出在家町魚のゆりかご水田協議会 滋賀県 魚のゆりかご水田の取組みによる生物多様性の保護活動及びまちづくり
中村大輔 滋賀県 湿地環境教育「KODOMOラムサール(ダイスケメソッド)」の開発と実践
京都府立桂高等学校 
TAFS「地球を守る新技術の開発班」
京都府 地域の自生芝を活用する!~多様性のある草原を創る~
パナホーム株式会社 大阪府 ビオトープ「つながりのひろば」における環境体験学習
海と空の約束プロジェクト 兵庫県 自然保護と私たちのくらしとの繋がりを判りやすく教育普及する。
奈良県立御所実業高等学校環境緑地科
「生物多様性の保全」研究班
奈良県 生物多様性ならプロジェクト
飯田 知彦 広島県 ブッポウソウの保護復活と教育啓発活動、クマタカの研究と保護への貢献
久留米の自然を守る会 福岡県 久留米の自然のすばらしさを通して環境保護の重要性を市民につたえる活動
和白干潟を守る会 福岡県 博多湾・和白干潟の自然保護活動の推進
久貝 勝盛 沖縄県 学校・地域・行政を巻き込み成功させたサシバ保護活動

お問い合わせ先

公益財団法人 日本自然保護協会 日本自然保護大賞担当
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
award@nacsj.or.jp
TEL. 03-3553-4101 / FAX. 03-3553-0139